大学入学共通テスト「情報」新設

パソコン教室と直接のつながりがあるか疑問ではありますが今年からはじまった大学入学共通テスト(以下共通テスト)の新科目として令和7年度に「情報」が加わることが発表されました。(大学入試センター)これは今年度から採用された新しい小、中、高の指導要領に適応させるものです。いわゆる世間で騒がれていた「小学校でのプログラム必修化」の延長線上にある処置ということですね。プログラム必修化についての個人的な思いは以前に記事していますので興味のある方はお読み頂ければと思います。

プログラム授業必修化 その1
小学校でのコンピュータプログラムを必修化することが既に決まっています。 これを商機と見て他業種も含めてパソコン教室(プログラム教室)の開催が増えているようです。「これからはコンピュータの時代」「プログラムが必修化されるので習い事として良い」...
プログラム授業必修化 その2
前回の記事で小学校で担任の先生がプログラムを教えることに過度な期待をすることは出来ないという趣旨で書かせて頂きました。学校の先生もどうやって教えて良いのか悩んでいるのではないかと思います。こんなことに時間と労力を使うくらいなら休み時間や放課...
プログラム授業必修化 その3
プログラム授業必修化3部作の最終記事です。 その1では学校でのプログラム授業について その2ではパソコン教室でのプログラム授業について それぞれ私見を述べさせて頂きました。他者批判に思われると困りますが私はプログラムの必修化に反対している訳...

今回は共通テストについての発表でしたが、これに合わせて高校や私立大学でも情報を試験科目にする動きが出ると思います。ひょっとすると早晩私立中学の受験科目に登場する可能性もあります。

ただ、情報は前回までの指導要領では中学で技術、高校で情報と社会として学習しているものの試験対策が学校や学習塾で行われることはほとんどなかったものと思われます。学校も塾も予備校も恐らく教えられる先生が圧倒的に不足する(人数的、技術レベル的にも)ことが予想されます。たまたま良い先生に当たれば得点できますが逆に多くの場合は得点に結びつけることが難しいのではないかと思います。

今回は共通テストでのサンプル問題が公開されましたのでそれを実際にやってみた感想や現在は情報系高校で学習した人だけが受験できる数学に組み込まれている共通テストの数学(情報関連基礎)との比較、他の国家試験や民間試験との比較などを通じて難易度や傾向などを探ってみたいと思います。

私は大学でも情報系国家試験対策担当の講師として登壇していますが、予備校などの受験対策のスペシャリストではありませんのであくまで情報の専門家としての意見に過ぎませんのでご了承ください。

サンプル問題の概要から見て行きましょう。サンプル問題は大問が3題あります。大問1は情報分野の基礎知識を問う問題です。社会インフラとしてのICTの性質や役割、適切な図表の選択、画像のA/D変換、IPv4のアドレスについて出題されています。基礎的な内容ですので難易度としては易しい部類になると思います。現在の情報関連基礎で出題されている内容と大差はないと思います。情報系の国家試験でいえばITパスポートの知識があれば8割以上は取れる内容だと思います。

大問2はプログラムに関する問題です。プログラムは仮想の言語を用いていますが書式が簡単なので理解に苦しむようなことはないと思います。基本情報技術者試験などで出題される疑似言語をさらに簡略化したような感じです。サンプルでは比例代表選挙で当選者をドント式で決定するプログラムを穴埋めで作成する問題でした。アルゴリズムを読み取る力があれば難易度は高くないと思います。基本情報技術者試験の午後問題にあるアルゴリズムの問題を簡単にしたような感じの問題です。一応トレースも出題されていますが前述のとおりアルゴリズムが理解出来れば得点を稼ぎやすい問題だと思います。

大問3は表計算を意識した問題のようですが、実態は統計の問題です。相関、回帰直線、分散、標準偏差、平均、四分位数など用語とその意味を理解していなければ得点が難しい問題になっています。また、4元1次方程式(他の解き方があるかもしれませんが…)をはじめとした計算問題が多く出題されているので大問1、2で時間を使ってしまうと計算をしきれなくて時間切れになる可能性があります。難しいという感じではありませんがきちんと学習していないと解けない(あてずっぽうでは無理)な出題というイメージです。

なんの予備知識も対策もないままにいきなりサンプル問題に取り組んでみましたが所要時間は1時間で正答率は約85%でした。今年の共通テストの情報関連基礎(前期出題)は95%程度の正答率でしたから10%ほど得点は下がった感じですね。ケアレスミスがいくつかあったのとやはり普段は計算機に頼ってしまうので大問3の計算に手間取ったのが失敗でしたね。現役の高校生ならスラスラ計算できたかもしれません。

今後予想される試験の傾向ですがsociety5.0やインダストリー4.0に関連したICT技術関連の問題が大問1では予想されます。その中ではAIやIoT技術に関する知識も問われると思います。ネットワーク系ではIPv6やセキュリティに関する出題が考えらます。今回は情報セキュリティに関する出題がありませんでしたが今後は出題されることが予想されます。大問2のプログラムは公知のアルゴリズムに関する出題が予想されます。サーチ、ソート、マージなどの代表的なアルゴリズムの他、ユークリッド互除法などの数学的アルゴリズム、ダイクストラ法やベルマンーフォード法などによる最短経路問題などは出題しやすいのではないかと思います。大問3は統計的な計算問題が出題されることが予想されます。前述した統計の基礎をきちんと学習しておくことで対応できると思います。

過去問題なく類題も蓄積されたものがある訳ではないので情報処理試験で対応して対策を考えてみたいと思います。ITパスポート合格程度の実力があれば恐らく平均点以上は取れるのではないかと思います。それに加えて基本情報の午前問題で言えば線形代数や確率などには少し力を入れると良いかもしれません。プログラムに関しては基本情報の午後問題のアルゴリズムが少し難易度は高くなりますが良いトレーニングになると思います。今回は出題されませんでしたが情報セキュリティの分野からの出題は十分に考えられるので情報セキュリティマネジメントの過去問にも目を通すと良いかもしれません。特に午後問題にヒントがあるように思います。

と、まぁ好き勝手に書いてみました。あくまで私見ですので「へぇ~そうなんだぁ」くらいで思っていただければ結構です。上の息子は来年共通テストを受験するので情報は関係ありませんが、下の子は受験科目になっているかもしれませんから少しは教えてあげられるかな?

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