プログラム授業必修化 その1

小学校でのコンピュータプログラムを必修化することが既に決まっています。

これを商機と見て他業種も含めてパソコン教室(プログラム教室)の開催が増えているようです。「これからはコンピュータの時代」「プログラムが必修化されるので習い事として良い」などと言われていますし様々な広告等で見聞きした方も多いと思います。

では、この状況をパソコン講師歴20年超、プログラマ・SEとしての職歴を持ち現役で大学講師を務める私がちょっと専門家の立場からどのように考えているかを書いてみたいと思います。

まずプログラムを小学生から学ばせることは大賛成です。ただし条件があります。

「専門家が正しい知識を目的を持って教えることができる」

このことが必須条件だと思っています。

まずは学校での取り組みを考えてみましょう。学校では当然ですが担任の先生が教えることが多いと考えられます。中学、高校のように教科担当制にはならないと思います。

そう、学校の先生は小学生教育のプロではありますが、プログラムを教えた経験はほぼ皆無の先生がほとんどです。当然、研修もあるでしょう。先生も努力されると思います。でも、プログラムなど扱ったことのない素人です。では、どうなるか?

マニュアルが作られます。そして、そのとおりに授業を進行しようとするでしょう。恐らく児童達は先生の動作を真似するだけです。先生もそれがどのような意図を持った行動なのかを真に理解している訳ではありません。なのでちょっとでも児童が違った行動をするとどのように対処して良いのか分からなくなり「勝手な事をするな」という方向でますます単なる真似事の時間の浪費が繰り返されるという悪循環が起きるのではないかと危惧します。

それが杞憂ではない実例が実は既に各所で起きています。

キーボードで日本語を入力するときは「ひらがな」を入力して「漢字」に変換しますよね?では、その「ひらがな」を入力する方法はどうしていますか?

多くの方が「ローマ字入力」を採用していると思います。「ひらがな」を入力するにはもうひとつ「かな入力」という方法があります。どちらが正しい方法ではありません。どちらも正しい正式な日本語入力方法です。

それにも関わらずある小学校で小学校2年生にはじめてパソコンを使わせる授業のときに先生が指導したのは・・・

「a」を押すと「あ」と出ます。

アルファベットもローマ字も知らない小学2年生にローマ字入力のナンセンス。ここからは私の想像ですが、まず「a」は「A」と同じ文字で「エー」と読む英語であること。そして、それはローマ字して使うときには「あ」と読むことを説明したのではないでしょうか?他の文字も同様に教えたとすると自分の名前をキーボードで入力することさえほとんどの児童はできないことでしょう。

そして児童は思います。「あ」というキーがあるのに何故「あ」が出ないのか。そして、それは何故使ってはいけないのか。正しい考え方だと思います。答えは簡単です。

「先生がそれしか教えられないから」

まぁ、言い訳としては「みんなが使っているから」とか「ローマ字の方が速い」とか「正しいやり方はローマ字だから」とか「覚えるキーの数が少ない」辺りでしょうか?

どれも「かな入力」をしてはいけない理由ではありません。しかも、見解としては間違っています。

現在のアルファベットのキー配置はQwertyと呼ばれる配置で諸説ありますが、19世紀後半にモールス信号を打ちやすくするために原型が作られたとされる説が有力です。すなわち…

アルファベットのキー配置は速く打つためにバラバラに配置されている訳ではない。

と言うことです。もっとも「かな」の配置も決して褒められた高速化の配置ではありませんが、それでも「かな入力」の方が圧倒的に速いです。

単純なことです。「か」を入力するときにローマ字入力では「KA」と2つのキータッチが必要ですが、かな入力では「か」と1つのキータッチで済みます。母音などもありますのですべて半分という訳ではありませんが、キータッチの量が半分であれば単純に考えて同じ速度で入力が可能であれば「かな入力」が倍速い理屈です。

「かな入力」って素人打ちで遅いんじゃないの?速い「かな入力」の人って見たことないよ。

そう、あまりにローマ字入力の人が多いので「かな入力」が速いと言っても俄かに信じられないという人が大勢いることも知っています。

実例を挙げましょう。

私は中学1年からパソコンを始め「ローマ字入力」を普段は使っています。入力速度は決して速い方ではありませんが、P検のタイプテストで満点を取るくらいの実力はあります。

一方、現在中学生の長男は小学校1年生から「かな入力」で入力を行っています。同じくP検のタイプテストで満点を取れます。

速度は同じなのか?いいえ、違います。P検のタイプテストの制限時間は5分です。私はすべてを打ち切るのに4分30秒以上確実に掛かってしまいます。しかし、息子はそれよりも1分以上早く入力を終えます。そうです。

圧倒的大差で息子の方が速いんです。

では、なぜ私は「かな入力」にしないのでしょう?慣れていて必要を感じないからです。実はパソコン教室を開く際に「かな入力」を猛練習しました。なので、一応「かな入力」もできます。でも、普段は慣れている「ローマ字入力」を使っています。そう、繰り返しになりますが、どちらも正しい入力方法なんです。すなわち、好きな方で入力すれば良い訳です。

実際にパソコンスクールZAMaに入校された生徒さんの中には全くキーボードを触った事がないという方も多くいらっしゃいます。どちらも正しい方法ですが全く経験がないのであれば迷いなく「かな」をお薦めしています。私は両方教えることができるので受講生の方の負担の少ない方法を選択する訳です。もちろん「ローマ字入力」をご希望ならば無理に「かな」にする必要はありません。

かなり以前の話しですが、「かな入力」をお薦めしたご高齢の受講生の方が、ご家族から

「かな入力を教える教室なんて胡散臭いからやめた方が良い」

と言われたそうです。受講生の方は私の話しを信じ、納得してそれからもご通学を続けました。半年くらい経ったある日の授業でその生徒さんが

「今では家族の誰よりの速く入力できるようになりました。もう、誰にも文句言わせませんよ。」

と、笑って仰っていたのが印象的です。

随分、横道にそれてしまいました。

現行の学校のパソコン教育は入力ひとつとってもこのような状況です。では、プログラミングを小学生のうちにきちんと学ぶためにはプログラム教室しかないのか?

長くなりましたのでそのことについての考察は次回の記事に回したいと思います。

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